トップメッセージ Top Message
未来を創る、自走型組織へ。
この10年、最も注力した「組織風土改革」
早いもので私がこの会社に来てから10年、社長に就任してから6年の歳月が経ちました。その間にはさまざまなことがありましたが、私が最も意識し、注力してきたことは「組織風土改革」でした。組織風土というものは、その企業の長い歴史のなかでつくられていくものです。私たちの会社は90年の歴史を持ち、その間に組織の風土が形成されてきました。故にこれを変えていくことは、簡単なことではありません。しかし、私たちの会社がさらなる成長の道筋を描いていくには、「組織風土」を変えていくことが必須であると考えました。これまでの私たちは、さまざまなテーマや課題をお客様からいただいて、それらを「技術」や「サービス」で応えていくことでお客様からご評価を受け、お客様との信頼を築き、次の仕事に繋げていきました。まさにお客様に成長させていただいた90年でした。そのこと自体は決して悪いことではなく、私たちの強みでもあります。しかし、それ故にどこか“受け身的”な体質や風土が、組織全体のなかにできてしまったのも事実です。この風土を変えていくことは、私たちの「ビジネスモデル」にも関わってくることです。マーケットが拡大し、常に仕事がいただける時代であれば、これまでのやり方でも成長することは可能なのかもしれません。しかしながら、これからの時代を生き抜くためには、このやり方では成長し続けることは難しいでしょう。時代やお客様のニーズを先回りして捉え、自分たちから仕掛けていくことが必要です。私は、長い時間をかけて「自ら提案していくこと」「商品企画をはじめとした企画」の重要性を社内で伝えてきました。まだまだ道半ばではありますが、ようやく組織全体のなかでも企画部門の存在感が増してきていることを実感できるようになりました。私たちが「自ら提案していく」組織に生まれ変わっていくことで、次のステージに進むことができるのだと思います。
経営目標は全てクリアした前中期経営計画
2023年度は、私が社長に就任してから2度目の中期経営計画の最終年度にあたります。この3年の間にはコロナ禍、ロシアによるウクライナへの侵攻、米中経済対立の拡大、中国経済の成長鈍化など激しい外部環境下ではありましたが、3年を通して公表していた経営数値目標に関しては、全て達成することができました。その要因として挙げることができるのが、営業部門の変化です。部材の入手がとても難しい時期もありましたが、お客様との適正な価格(値上げ等)の交渉や徹底した原価管理などを通じて利益にこだわる営業活動ができたことが、この3年間で大きく変わった部分だと感じています。
また、再生可能エネルギーや水素などの「新エネルギー分野」での成長を目指し、その分野にしっかりと対応できたことも大きな要因だと言えます。これは前中期経営計画の3年間だけではなく、中長期的な私たちの成長領域。すなわち、これから「私たちが進むべき未来」として、確信を持てたことが大きな成果だと思っています。投資についても、未来を見据えた投資を実行することができました。具体的には、電源機器開発の制御ソフトウエアシミュレーターの導入、ウエハの大口径化への対応、製造プロセスの自動化や合理化などに投資しました。これらの投資は開発や製造の効率化を目指しており、長期的に投資効果が表れると考えています。
最終年である2023年度には、私たちの独自の技術を駆使した大型案件を複数獲得し、売上高260億円の計画に対して310億円、営業利益に関しては19億円の計画に対して34億円と計画を上回ることができました。営業の成果としては良かったと思っていますが、その裏にある課題が浮き彫りになりました。世界的な部材不足のなか、全社を挙げて部材を集め、なんとか納品にこぎつけたというのが実情です。先ほどの風土の話にも重なりますが、やはり受け身の姿勢が招いたことでもあります。理想的には、先を見越して数年かけて提案を行い、計画的に製造して納品していく。そうすれば、部材の不足で慌てることもなくなると思いますし、毎年の中核的な受注に繋げていくことも可能なはずです。今回のことを課題と捉えて、組織として改善していかなければなりません。また、海外についても課題が残りました。計画前は中国が重要なエリアと捉えていましたが、中国経済の成長鈍化の影響を受け、思うような成果を得ることができませんでした。中国の問題はこれからも続くと思いますので、解決すべき課題として捉え、次の中期経営計画で海外戦略をアップデートします。
ビジョンからバックキャストした「新中期経営計画CF26」
新たな中期経営計画についてですが、方向性についてはこれまでと大きく変わることはありません。前中期経営計画期間中に私たちは「パーパス」を策定しました。今回の中期経営計画は、私たちの「パーパス」がベースとなって、議論が始まっています。「パワーエレクトロニクス」と向き合い続け、社会を良い方向へ前進させることが私たちの存在する意義です。そのことを計画に向けた議論のベースとしました。
もう一つ前提となっているのが、「ビジョン」です。具体的には、100周年を迎える2033年度までに実現させたい「私たちのありたい姿」を踏まえて、次の3年間をどうするのかという議論を徹底的に行いました。これまでの延長線ではなく、100周年までに「目指す姿」に対して、やるべきことを計画としてまとめています。
半導体事業:注力する市場は、「インフラ市場」
事業戦略の方向性としては、前中期経営計画から引き続き「新エネルギー分野」での成長です。半導体事業では、従来の建設関連、産業用設備に加えて、より社会への影響(インパクト)が大きい「インフラ市場」に注力していきます。具体的には、モビリティ、再生可能エネルギー、蓄エネルギー、データセンターなど向けになります。また、キーとなる製品であるSiC(シリコンカーバイド)半導体製品は、高耐圧性が特徴であり、幅広い市場で注目されています。SiC製品の拡充に向けては、国内、中国・アジア、北米・欧州などエリアの特性に合わせた地域展開を実行します。特に欧米では、さまざまな研究機関などが関心を持ってくれていますので、可能性を感じています。
電源機器事業:表面処理用電源をグローバルで伸ばす
電源機器事業においては、これまでと同様に新エネルギー分野の製品開発に加えて、我々が最も得意としていて、国内シェアNo.1を誇る「表面処理用電源」をグローバルで拡大させていきます。表面処理用電源は、精密な表面処理を求められる高い技術力が必要な領域です。これまで多くの実績を持つ私たちは、世界でも優位性があると考えています。
また、資本関係のあるパートナーとの連携もさらに高めていきます。三菱重工や日東工業と「新エネルギー分野」での共同開発を進め、チームで競争力のある製品を開発していきます。
電源機器事業においては、もう一つチャレンジしたいことがあります。それは、子会社の株式会社諏訪三社電機が推進する「小型電源」での新たな市場開拓です。社会のスマート化に伴い、EV用の充電スタンドや半導体製造装置向けなどへの需要が見込まれ、データセンターなどの情報インフラ整備でも小型電源はニーズがあります。
設計の「標準化」に着手する
電源機器事業における最後のポイントは、部品や設計の「標準化」です。現在、電源機器事業は大型の電源装置が多く、お客様ごとにそれぞれ「カスタムメイド」で製品設計しています。一件ごとに設計して製品化していくため、時間もコストもかかります。量産ではないため、品質を維持するのも大変です。逆に言えば、カスタムメイドの設計方法を変えることができれば、時間が短縮でき、コストを下げ、品質を上げることができる可能性があるということです。元々、カスタムメイドで「痒いところにも手が届く」手法が、お客様に好評であることも事実ですが、乗り越えなくてはならない壁はたくさんあると思います。しかし、長期の「ありたい姿」を実現させるためには、避けられない挑戦だと考えています。お客様の満足度は下げずに、効率的な設計方法を探していきたいと思います。自動車の世界で言えば、高級車でも見えないところでは大衆車と同じパーツを使っていることがあるように、ユーザーの満足度を下げずに設計や部品の「標準化」を進めていきたいです。このチャレンジがうまくいけば、利益の向上だけでなく、品質も上がっていきます。営業も事前に仕様を把握してお客様と話ができるので、企画型の営業もしやすくなると思います。「標準化」は、私たちの歴史のなかでも大きなプロセスの進化になります。時間がかかるかもしれませんが、これを実現させることで、自ずと私たちが目指す「ビジョン」に近づいていけると信じています。
メーカーとして知財を武器にする
サステナビリティについては、3つの重点施策があります。1つ目は、私たちの事業活動において環境負荷を軽減させること。私たちは、2030年までに2013年度比で46%のCO2排出量を削減させる目標を立てています。2つ目は、事業継続マネジメント(BCM)を強化すること。特に近年、増加傾向にある自然災害やサイバーセキュリティの脅威に対処するために、リスク評価とビジネスへの影響を分析し、戦略を立て実行していくこと。BCMに関しては、海外のお客様からも問い合わせが増加していますので、お客様の不安がないように、取り組みを強化していきます。3つ目は冒頭の話にも繋がりますが、「自走型組織」を目指した活力のある風土をつくること。これまでの10年間と同様に、組織風土をさらに改善するべく、私が先頭に立って進めていきます。社員がイキイキとモチベーション高く、幸福を感じながら働くことができる環境をつくることを目指して、評価制度の変更や育成プログラムの拡充など、さまざまなことにトライしていきます。そのため、この1年で人事部門を強化しました。
加えて、メーカーとしての知財意識の強化にも取り組んでいきます。私は若い頃、知財部門に在籍していたことがありますが、ビジョンを実現させていくためには、知財をもっと戦略的に考えていく必要があると思っています。私たちは技術の会社です。この技術を戦略的に価値に変えていくこと、価値を生み出すために守っていくことを意識することが、グローバルでの成長を実現させるためにより重要になってくると考えています。
なお、新たな中期経営計画の目標は、3年後の2026年度に売上高330億円、営業利益22億円、当期純利益15億円、自己資本利益率(ROE)6.2%としています。1年目は前年度の大型案件の反動がありますが、2年目で2023年度までの水準に戻し、3年目はさらにそこに上乗せさせていく計画です。また、前中期経営計画で先行的に投資をしてきた分、この3年間は減価償却費が増加しますが、成果の収穫を並行して進めていきます。
コーポレート・ガバナンスを前進させる
コーポレート・ガバナンスについては、一歩前進することができました。これまで社外監査役だった梨岡英理子さんが、社外取締役に就任しました。梨岡さんは、私たちが事業戦略でも目指している「環境分野」に知見が豊富ですし、元々会計士でもあります。企業経営者である宇野さんや伊奈さんとも違う視点で、私たちの企業価値創造に貢献してくれると思います。私たちはモノづくりの会社ですが、女性が活躍していく環境づくりには課題があると認識しています。女性活躍推進を中心としたジェンダーギャップの解消やダイバーシティの推進についても梨岡さんの視点に期待をしています。また、後任の社外監査役には、同じく女性の植田麻衣子さんに就任していただきました。私たちのコーポレート・ガバナンスについては、まだまだ進化の余地がありますが、まずは一歩前進できたという認識です。
私たちが創る未来にワクワクしてもらう発信が必要
東京証券取引所の要請で、上場各社は「資本コストや株価を意識した経営」に取り組んでいます。私たちも、資本コストや株価を意識しつつ、株価純資産倍率(PBR)の改善に努めていく必要があります。先ほど述べたように、組織風土を変革させ、設計の標準化や企画による攻めの営業、投資による生産性の向上など利益率を高めていくことはもとより、株主・投資家をはじめ社員やそのご家族、これから社会人となる学生の皆さんに対しても、私たちがどういう未来の創造を目指していくのか?それは、どうやって実現させていくのか? 三社電機製作所という会社に対して多くのステークホルダーの皆さんがワクワクするような施策の実行とその発信(コミュニケーション)をしていく必要性を強く感じています。そこは、私たちの大きな課題として、その解決に取り組んでいきます。どうぞ、これからの三社電機製作所にご期待ください。
株式会社三社電機製作所
- 代表取締役社長
- 𠮷村 元